ねこローグ

ねこローグとはねこのダイアローグの略です。飼いねこの椛(もみじ)のことや自分自身やどんな方をも大切にできる良質なダイアローグ(対話)を記します。

あの物音は悪口だ!! 当事者研究による変化


「隣の人の物音が悪口に聞こえるのですよ。(隣の人を)ぶっとばしてやりたいです」と利用者さんは訴えました。職員は何をするかわからない怖さも感じ、困り果て、責任者だった私にどうにかしてくださいと伝えてきました。

 

 実際には、隣の方は物音をたてておらず、とくに迷惑をかける行為はありませんでした。おそらく、その方は被害妄想を抱いており、統合失調症の症状か、発達障害の二次障害かと推測されました。(統合失調症発達障害及び二次障害はまた別に書きたいと思います。)

 

 そこで、私は、利用者さんと面談をし、利用者さんの言われること、訴えに耳を傾けました。利用者さんが抱えている苦悩、苦労やしんどさなどに対して、共感を示しながら、じっくりと伺いました。利用者さんは、隣人に対して被害妄想をいたいているさまを伝えてくださいました。

 

 ただ、私はそれは被害妄想ですよとは指摘はしませんでした。被害妄想と判断するのは、精神科医等医師がすることですし、なにより、本人のおかれている環境を、推測し、共感を示すことで、一緒に利用者さんの置かれている世界を体験することができます。

 

 そして、私は利用者さんに「研究しませんか」と提案をしました。辛い環境におかれていますねと伝えた上でです。すると利用者さんは、研究してみますと返答されました。

 

 そこから、利用者さんと私と二人での共同研究が始まりました。利用者さんは、隣の方から、どんな物音が聞こえて、何を言われているのか、伝えてくださいました。私が人間の絵を描いた絵に、物音や言われていることを吹き出しにつけて記していきました。絵にすることで可視化することができ、より自分の苦悩を知ることができたようでした。

  

 「では、対処法なにかないですかね」と提案したところ、利用者さん自らが、「悪口を言われたら、小さなキャップ(栓)をひっくり返してみます」と言われました。そこで、その方法を試してみることになりました。

 

 そこから1週間に1回程度15~30分程度の時間をとり、研究を続けました。実際に悪口を言われたときに、キャンプをひっくり返してみた感想など伺いました。すると、すこし気が楽になったと言われていました。

 

 誰でも継続して悪口を言われたら、悪口を言った方々をぶっ飛ばしたくなる可能性があると思います。しかし、対策を隣人に向けるのではなく、当事者研究は自分自身への対策へと向けることができます。

 

 ある精神科医は、相手への対策ではなく、自分自身への対策を考えたらよいといわれます。自分自身への対策は、自分自身が受容されていることからはじまるのだと思います。

 

 実際に、私は被害妄想を否定しませんでした。むしろ積極的にその利用者さんにおかれている環境の中に入り込むよう心がけました。その苦悩を共に味わうことが需要ともいえるのではと考えます。

 

 その受容からはじまったことが、研究へつながり、利用者さん自ら自分への対処法を生み出すきっかけになったと思います。

 

 実際に私は何もしていません。何か指図をしたり、指示をしたりはもちろんのこと、助言一つしていません。利用者さん自らが、自己肯定感を育み、自分の助け方を開発していったのだと思います。

 

 今回の当事者研究は、利用者さんと私の1対1でしたが、通常の当事者研究は3人以上の利用者さんや支援者と一緒に行います。すると、参加している利用者さんからもこんな助け方はどうですかと提案があります。そして、自分で助け方を選んでみて、試してみます。

 

 当事者研究はこちらに記してあります。

nekologue.hatenablog.com

 

 このブログを書きながら、お金が勝手に貯まってしまう最高の家計という本を読んでいました。この本の感想はまた別に書きますが、本の最後に「人と人とのつながりが大切」であることが書いてありました。

 

 実際に最初に登場した利用者さんは、物音(しかもその物音もまったくない)が、自分への悪口に聞こえるという自分と他人を遮断してしまう状況に悩まされていました。

しかし、状況の受容と研究によって、一気に打開されていきました。

 

 ただ、私は統合失調症の方にせよ、発達障害の二次症状の方にあったにせよ、被害妄想がある方に、精神科医が色々な薬を処方することは否定はしません。実際に薬のよって、症状が軽減され、過酷な生きづらさから逃れることができるのは事実です。

 

 私は、薬や当事者研究も大切だとは思うのですが、最終的には、薬や当事者研究を通して、人と人とのつながりが絶たれた、絶たれる様な状況が、回復していく、安心してすごしていくことが大切であると考えます。

 

 つらいことですが、自死する方が日本では多数おられます。自分を責める様な状況ではなく、つらいことをつらいと安心して言える環境がもっと整備されれば、そのような辛い状況から逃れられていくのではと考えます。

 

 2000字をこえましたので、第14回目を終わります。